
木の乾燥は5%台
木の乾燥、日本の多くの家具製造会社はだいたい8%台にまで木の乾燥を進めます。年間を通して比較的湿度の高い日本では、この乾燥率でも問題なく家具が機能します。ですが、昨今の気密性の高いお家の建て方が増え、またさらに地球温暖化の影響等で年間を通して乾燥を促す冷暖房器具の使用頻度が非常に高くなっています。そのため、8%まで乾燥させた材でも「反りやひねり」が出るケースが増えてきています。今後は日本での乾燥率はもっと下がるかもしれません。
PP MØblerでは木の乾燥は5%台です。ヨーロッパ等、日本より年間と通した湿度が低い国に対応させるため、日本より低いというのは納得がいきます、それにしても5%は非常に低い数値です。これは、長年使って頂いた場合においても、木の反りやひねりが極めて少ない状態で使って頂きたいと願う気持ちの表れです。
※ただ、塗膜を持たないほとんどのPP MØblerの家具は繊細です。30%以下に湿度が下げれたお部屋での長期間の使用はお避け下さい。想像もしない割れやビビの原因になります。
機械と手作業の融合
以前の木工作業のほとんどは手作業のみでしたが、そのほとんどは今では最新のコンピューター制御の加工マシンがしています。コンピューターマシンは削るだけです。PP MØblerの椅子の多くが持つ「寄木」により「契り部分」等の接着は人の手で行われていますし、コンピューターマシンにより削り出された部品は人の手で研磨され、そして組み立てされます。
コンピューターマシンの導入で、半製品(仕掛品)までの工程期間は大幅に短縮されました。ですが、それから先の手工程は人の手によってのみ可能ですので、納期的にはそれほど短縮されたということはなく、また、大幅な費用削減にも寄与していません。
もともと、機械加工を前提として作品がデザインされていないため、費用対効果は限定的です。
もしかして、これから発表される作品群の中には機械加工を前提としてデザインされるものも出て来るかもしれません。そうした場合には、大幅に費用は削減されるのではないでしょうか。
事実、Wegnerが1987年にデザインしたPP68等は機械加工が前提としてデザインされていますので、大幅に価格が下げられています。
見えない部分であってもちゃんとつくる
写真はベアチェアの後脚です。オーク材なのですが、生地が張られたあと、見えなくなる部分も全てオーク材で、細かな研磨作業まではされていませんが、きっちりと作り込まれています。見えない部分は見える部分とは違い、強度と耐久性があれば安価な材そして、それほど削り出さなくても見た目は同じベアチェアは完成します。「それでいいのか」、「それがダメなのか」、ほとんどの会社はより多くの人に家具を提供するのであればそこまでやらなく、価格を落とす方に舵を切ります。価格が高くなり結果「ありがた迷惑」となりかねません。
PP MØblerの家具はこの「無駄」部分を「無駄」と呼ばない人達に向けて家具を製造しているのです。ただ、私達は思います、実はほとんどの方、この部分について「無駄」とは思わないと思います。ただ、それに見合うだけの対価を支払う覚悟がないのだと思います。
「いいな〜、素敵だな〜。でも高いから・・・」ということです。
同じ木で仕上げる
1本の木から家具が作られます。テーブルを例に取ります。PP MØblerのテーブルは全て無垢材ですが、その無垢材のテーブルは全て1本の同じ木から作られます。何本かに裁断された板を継いで1枚の大きな天板にするのですが、その1枚1枚の幅はそれぞれ違い、材の消費を最小限に抑え、無駄にしないこと、そして、同じ木から取られたそれぞの板の経年変化は同じて、数十年経ったあとでの天板の美しさを損なわないようにとの願いがあります。
ベアチェアの縫製、布で1週間、本革で2週間
コンフォートマートではこれまで数えきれない程の数、椅子、そしてソファの張替を椅子職人さんにお願いしてきました。私達が知っているのは、「張りは職人技」ということです。その職人技の中でも難しいものから、簡単なものまであります。このベアチェアは最高に難しい部類に入ります。時間がかかるということ自体、そんなに大したことありません。ですが、それが「熟練した職人が」と修飾語が付くと話は別です。もう何十年も張り専門でやってきた職人が布張りで1週間もかける椅子なんて、経済性を考えた場合、ありえません。ですが、PP MØblerそれが「当たり前」ということで張りが行われています。
ヴィンテージよりも今の方がいいのです
コンフォートマートでのモットーです。「同じものなら、そしてそれを作る人が一流なら、昔のより今のものの方がいいに決まってる」。向上心の問題です。現代表のソーレン フォレスト ペダーセンさんに「今のベアチェアとAP ストーレン社のベアチェア(ヴィンテージ)と何が違うの?」尋ねました。「APストーレン社でなくPP MØblerが作っているということが一番の違いだと思う」。なんとなく分かる気がします。昔のベアチェアと今のベアチェア、基本設計は同じです。現に今のベアチェアがPP MØblerで作り始められた2003年、APストーレン社のヴィンテージチェアをもとに再現されています。以前、どこかの張り職人さんが私達に言った言葉がそのまま当てはまります「職人は自分の仕事に満足したらおしまい」。つまり、細部にこだわればこだわる程、同じ椅子を張るのであっても改善の余地はいくらでもあるということです。つまり、APストーレン社が作っていた頃と比べその中身はPP MØblerのエッセンが吹き込まれ、同じ椅子であっても、細部に渡ってはもうヴィンテージの同じ椅子とは別ものになっているということです。それは、多分ステッチの数の違いだとか、フィリングで使う獣毛の量だとか、私達の目で確認ができな場所なんだと思います。ただ、その細部の改善が折り重なることにより、座った時の印象、そして耐久性が高くなっているということです。
工房訪問の最後にソーレン フォレスト ペダーセンさんのオフィスで撮った1枚です。創業者のアイナーさん、そして現代表の息子さんも含めての貴重なショットです。
PP MØblerの家具はその価格帯から「すべての人達の家具」ではないと思います。ですが、こんなこだわりを持って50年以上も操業し続けれる理由を理解することは、これから皆様にそれぞれの家具製造会社がそれぞのこだわりを持って作る家具を紹介するための最高の材料になります。
また、このPP MØblerが作る家具を使って頂く方々は、「いいデザインの家具を使う」ということにとどまらず、家具から発信されるメッセージ、「環境保全」「自然への畏怖」「デザイナーとの契りを守る」等、多くの人が「正しい選択」と認めるものに対し、寛大に受け止めることのできる素晴らしい方々だと思います。コンフォートマート、そういった方々にも認めてもらえるお店になりたいと心から思います。素敵な工房見学会でした。
