写真の奥にあるのが宮崎椅子製作所です。畑に挟まれた狭い道を通っていくと、少し開けた畑があり、その奥に静かに佇んでいるのが宮崎椅子製作所です。私達が宮崎椅子製作所の商品を扱い始めたのは2010年です。それまでも、店頭でお取り扱いのあるカリモク60等、新品の家具は販売をさせて頂いていたのですが、小さな「木工所」とお仕事をさせて頂いたのは始めてでダイレクトに「作ることとは」というもの作りの本質に触れた気がします。私達にとっては最高の出会いでした。
宮崎椅子の代表の宮崎代表からの言葉はいつも一貫しています。軸足の片方は必ず品質の中心に立っているということです。新しいデザインに挑戦したり、新しい技術に挑戦したり、新しい市場に挑戦したりする時にもいつも自らの軸足の位置を確認しています。商売をすすめる上で自らが納得する品質を守り続けることは当たり前のことです。ですが、経済性を重視するあまりどこかでこの普通のことを忘れてしまった家具に遭遇することがあります。そういった家具、故意的に作られる場合もありますが、実はその多くは競争が激しい市場の中で経済性に編重してしまって知らず知らずにできてしまうのではないでしょうか。こういった家具を作らないように、宮崎代表はとても慎重に椅子作りを進めています。
木工機械に投資し、そして大勢の優れた匠スタッフで、そして世界的有名なデザイナーで家具を作ればいいものが作れるのでしょか。そうとも限りません。運良くいいものが出来たとしても、その品はものすごく高価なものになってしまいます。宮崎椅子製作所のいいところは、いい椅子を使いやすい椅子を高品質でそしてお手頃な価格で提供するということです。
こういった品質の高く、そして手に届く価格帯での椅子は約30名しか働いていない小さい会社だからできることなのです。
何度も宮崎椅子製作所におじゃましたことがあります。だいたい、代表は首からタイマーを吊り下げています。理由はと尋ねると「曲げ木だよ」です。宮崎椅子製作所がつくる椅子の中には曲げ木を使った椅子も多数含まれています。木を金属製の治具に設置して、熱をかけぐっと曲げます。その時間は部品ごとに決まっています。そのタイミングをタイマーで見ているのです。宮崎椅子で働く者は全員がプレーヤーなんだなと関心させられます。代表ですから、会社の経営もみないといけません。土日に商品について問い合わせをすると電話に出るのはだいたい代表です。休み無し働いているのかもしれません。
30名程の小さな会社です。一番の難点は一度に沢山のものができないということです。今、宮崎椅子製作所の商品の納期はだいたい3ヶ月程です。よく勘違いされるのが、1つの椅子を作るのに3ヶ月もかかってしまうのではないかということです。1つの椅子を作るのに3ヶ月もかけていては、いくら小さな会社といえども、もちません。生産スケジュールがあって、それぞれの椅子の生産計画がたてられています。半製品や在庫を全く持たない生産計画で基本的にオーダーがあった分だけしか生産をしません。そのため、材料の確保や製材等を含めるとだいたい3ヶ月毎にオーダーを締め切らないいけないのです。「在庫を持てばいい」という議論はありますが、在庫を増やし、保管費や人件費等の固定費を考えた場合、品質に無理が出て来る可能性があります。それまで、10円で作れていたものが、在庫を持つことにより例えば13円になるのです。納期を短くするためにコストが上がった分、販売価格に上乗せするなんてナンセンスです。なので、利益が下がった分、今の雇用を確保するために多くを作ることになります。多く作った分が売れる売れないは別として、今まで8時間いっぱいいっぱい使って10脚を作っていたものを13脚に増やさないといけない事態になります。さてどこに妥協点を見い出すのでしょうか。しわ寄せはだいたい品質に現れます。13脚作れるように品質を落とさざるおえません。「もっと早くつくればいい」という議論ありますが、代表自らタイマーを使って現場にいる会社です、そして土日は代表が電話対応です。もう、早く作れる余地は残っていません。
宮崎椅子製作所は最初から「11脚目」を諦めている会社なのです。それはまったくネガティブな意味でなく、11脚目を目指すのではなく、働く者皆が誇れる10脚をそれを分かって頂ける皆さんに精一杯の力で届けたいと思うポジティブな諦めなのです。ですので、その10脚については精一杯のことをほんとにしてくれます。様々な材での製作、持ち込み張り地での張替、脚カット、様々な仕上げ、個別のクッション特注対応等、11脚目を目指す製作所ではできない手厚い施しがあります。また、宮崎椅子は11脚目を目指さない会社であることを謙虚に認め、そして謙虚にそのことを販売店に説明します。私達はそのことを皆様に伝えて行かないといけないと思っています。
ものつくりについてものすごく真面目に考えている会社です。そんな会社がつくる椅子であるならほんとにちゃんと説明をしたいと私達は思います。だから、私達は私達がちゃんと説明できる以外の宮崎椅子製作所の椅子を取り扱っていません。 宮崎椅子に教えてもらいながら説明に自信がついたものから順にお取り扱いを開始しています。その数は少しづつ増えて行くと思います。